マリポーサの感想館

小説やゲーム、アニメ、ドラマ、映画等の感想を書いています

君とサクラを ★★★★8

君とサクラを

記憶喪失の青年・一ノ宮宗助。
ふと起きた、院内の不穏な空気……。
死の予感……。
病院からの脱出を目的とした一本筋のADVノベル。

ウディコンサイトより引用

あらすじは非常にあっさりとしており、単なる脱出ゲームのような印象を受ける。

とあるノベルゲーサイトのレビューで高評価だったことで前から興味を持っていた。このゲームの感想はネット上には非常に少なく完全に埋もれている。

この作品はいつものADVながらマルチシナリオ形式をとっており、それぞれのシナリオは2時間程度で、全部合わせると10時間の分量になる。

自分がこの作品で関心したのは、作品全体にかけられたトリックはもちろんそうだが、終盤で明かされる真実で思わぬ感動的なラストをもたらしたことだろう。

伏線回収に優れたシナリオであり、ネタバレできないため詳しく書けないが、かのシュタインズゲートEver17に比肩しうるシナリオだった。

シナリオ面では褒めるところしかない傑作であるが、欠点も存在する。まずグラフィック面では立ち絵が安定しておらず、表情差分も少なく、とくにサスペンス的な要素の多いこの作品では盛り上がりに必要だった。

システム面もADV専用のソフトでないためか、色々と不具合もあった。

これらの欠点があってもなお、シナリオ面だけで評価★★★★8までいったのは確かで、欠点を改善させてリメイクされていたら★★★★★10になっていたかもしれない。

そして注意点として、ウディコンサイト上の作品ページにダウンロードリンクがあるが、現在はリンク切れになっている。

このため、上の画像のように、サイト上部の別リンクでミラーサイトが用意されている。

名探偵・桜野美海子の最期 ★★★★8

名探偵・桜野美海子の最期

稀代の推理小説家、獅子谷敬蔵が建てた〈白生塔〉は窓がひとつもない山上の巨塔である。そこに招かれたのは五人の名探偵とその同伴者達。推理小説オタクにして高名な探偵の桜野美海子と、彼女の活躍を小説にして生計を立てている塚場壮太はその一組であった。
最初の晩、塔の主である獅子谷敬蔵は密室から不可解な消失を遂げ、翌日の朝、使用人のひとりが奇妙な転落死体となって発見される。名探偵達はそれぞれ好き勝手に推理を展開するが、犠牲者は次々と増えていき、さらに唯一の出入り口には外から閂を掛けられ、閉じ込められてしまう。
数々の死線をかいくぐってきた名探偵までもが被害者として惨殺されてしまう異常事態。密室殺人、首切り殺人、クローズドサークル、ダイイングメッセージ、といかにも推理小説らしい趣向が凝らされた事件の様相とは裏腹に、その本質に何やら推理小説の定型を覆す大きな企みがあると皆は感じ始め……。果てに桜野美海子が導き出した事件の真相とは?

個人的に、ウェブ小説界の「麻耶雄嵩」と呼んでいる凛野冥の作品のひとつで、凛野冥作品の入門編とされる作品でもある。

この作品は、自分がはじめて読んだ凛野冥作品で、初読時は麻耶雄嵩の初読時を上回ろうかというほどの衝撃度だった。こんな衝撃的な作品を無料で読めるなんて信じられなかった。

この作品で扱われているのは「後期クイーン問題」である。麻耶雄嵩の「隻眼の少女」で後期クイーン問題に対してひとつの答えを出したように、この作品もひとつの答えを出している。その答えも独自性に溢れており、他に類をみない。

またこの作品では館ミステリならではのトリックがあり、そのトリックの独自性も高い。

なお、作者によるとこの作品を書き上げたのは19歳だという。22歳で書き上げたという麻耶雄嵩の「夏と冬の奏鳴曲」を思い出す読後感だった。

探偵・渦目摩訶子は明鏡止水 ★★★★8

探偵・渦目摩訶子は明鏡止水

【第6回新潮ミステリー大賞最終候補作品】
ノンフィクション推理作家・山野部森蔵が心不全で死亡した。その葬儀を執り行うため、彼が人里離れた山奥に建てた〈つがいの館〉に山野部家の一族が集う。そして吹雪によって館がクローズド・サークルと化した夜、凄惨な連続殺人事件の幕が上がる。真相究明に乗り出したのは、使用人の娘であり駆け出しの探偵でもある女子高生・渦目摩訶子。さらに彼女は、推理作家を志望する男子高校生・山野部茶花を助手に指名したのだった。
それは、聖なる夜へと向けた、未曾有の大犯罪。あまねく■■■■を■■■する、史上最悪の企み。混迷を極める事件の果てに、大いなる真実を拝領した二人は、人々を前代未聞の結末へといざなう。
ミステリを愛するすべての生者と、ミステリを愛したすべての死者に、本書を捧ぐ――。

 

この作品は小説家になろうに掲載されているミステリで、著者の作品は「名探偵・桜野美海子の最期」を以前に読んでいて衝撃を受けた経験がある。「名探偵・桜野美海子の最期」は後日に感想を載せる予定。

読了後に思ったことは、かの四大奇書のひとつを読み終えたときの奇妙な読後感であり、現代に生まれた奇書ともいうべき内容だった。

もっとも独創性たらしめているのはかつての奇書をオマージュしていながら、数多くの奇書の各要素をミックスさせたという点だった。ミックスさせたことによって、作品の構造は混迷を極めた。

この作品に現れる登場人物は作劇的で現実感がまったくない。これは欠点のように映るが、読了したとき改めて思い直すのかもしれない。

普通は破綻しそうな構造なのだが、この作品のとある特異的な構造によって完成度を高めており結末まで計算されている。

麻耶雄嵩竹本健治が好きな人はきっとこの作品を気に入るだろう。

メタミステリとアンチミステリを両立させた驚くべき傑作。